習作;「彼」の話(第3話)(お萩)

(3)

 

「3年間、彼は川で溺れて死んだの。河原でバーベキューをしている最中だったわ。

 

深い川じゃなかったんだけど、彼は泳ぎがうまかったから油断したのね。

 

ちょっと奥のところまで泳いで行って、そこで蛸壺にはまったらもうそれっきり。再び浮かび上がってくることはなかったの。

 

彼の遺体が見つかったのはもう海に近い河口付近の中洲だったわ。

 

彼の最後を後で彼の家の人から聞いたとき、いろんなことを考えたわ。

 

暗い水の底にもがきながら引き込まれていく彼。水が肺の中にいっぱいに満ちて、もう終しまいかもしれないって思ったとき、あぁ、自分はもう死ぬんだなって思ったのかなとか、私と会えなくなって寂しくなるなって考えてくれたかな、とかね。

 

本当に不思議。生きることに絶望していた私がまだこうして生きていて、まさに生を謳歌していた彼がもうこの世にはいないなんて。」