「詩と写真 3」

 

 「“読書”って言うといつも一くくりにされるのよね。“本を読む”って言ったって、それは実用書かもしれないし、小説かもしれない。ノンフィクションやエッセイの可能性だってあるのよ。それに一口に実用書って言っても、『園芸入門』と『情操教育』じゃ大違いだわ。それを“読書”って一把一絡げに言われたんじゃ、読書家達もたまったもんじゃないわよね。」

 

 一息にそう言うと(「十把一絡げ」を「一把」と言い間違ってはいたが)、彼女はタバコを一口吸った。もし彼女の言うことに一理あるのだとすれば(現に僕はその時、ひどく感心したのを覚えている)、履歴書の趣味の欄に“水泳”と書くのは、水泳愛好家にとってはひどく屈辱的なことかもしれない。実際彼らは、“趣味:自由形”とか“趣味:背泳”と書きたいと思っているに違いないのだから。

 

 僕がそう考えたのは眠りに落ちる一歩前だった。落ちていく意識の中で、彼女としたその会話を思い出し、そして、その夢の一歩手前で僕と話している彼女の前にいる僕は、彼女の話に感心しながらもそんなことを思っていたのだった。今度彼女に会った時、この比喩が彼女に気に入ってもらえるかどうか試してみよう、と思った。

 

 思ったのだが、次の朝目が覚めて、そういえば彼女は3年ほど前にすでに死んでいたことを思い出した。

 

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