(再々)Symptom 20171009(№92)(お萩)

(写真:萩沢写真館

 

キーンというか細い耳鳴りはいつしか、ゴウという地鳴りに変わっていた。撮影シークエンス中、磁場コイルはローレンツ力によって振動し、大きな騒音を発する。その音は検査室内にいる人間が聴力保護具の着用が必要になるほどで、特に撮影が頭部に及ぶ際、被験者は耳栓の使用が薦められる(by ウィキペディア)。
ぶっ倒れて二度目に運ばれたとき、俺はなぜかこの耳栓を付け忘れられたみたいだった。そのせいで俺は、すさまじい圧迫感の冗談みたいにでかい装置に縛られたまま、その機械の発する轟々というケミカルな振動音に耐えるため、目をがっちり閉じ、奥歯をかみしめ、身を固くして冷たい診察台の上に何分も横になっていなくちゃならなかった。


それ以来だろう俺は、遠くからこっちへ向かってダンプや四駆が近づいてきた時とか、振動すら感じないほどの微かな余震の時なんかに聞こえるゴゴゴという地鳴り音に、異常に恐怖を感じるようになった。もうそれはなんというか、逃げられない恐怖との闘いだった。生まれたからには避けられない、根源的な恐怖との対面であった。心臓をじかに、冷たい手で触られたような恐怖だった。