(再々)Symptom 20170117(№68)(お萩)

(写真:萩沢写真館

 

 

「或る、悩み」
 

一緒に住みだして早1年。気心も知れ、お互いの仲も社会的に認知されつつあり、さてそろそろかという機運も内外ともに高まっている私たちです。お互いのことなら初体験の感想さえ話し合えるほどの仲なのですが、たった一つ、私には彼女に言えないことがあります。
 

それは、薬味、なのです。具体的に言うと、私たちには「日曜の朝食は納豆」という暗黙の了解があるのですが、私は彼女の出してくれる納豆の薬味、それにこの1年間、一度も満足したことはないのです。
 

もっと詳しく言いますと、薬味、まあそれはネギのことなんですが、まず、細かいことですが切り方が大まかなのです。細かいことの内容が大まかだというのも、なんとなく言っていて息苦しいところもあるのですが、まあそれはさておき、納豆の粒と同じくらいの大きさがあるのですよ、ネギが。
 

本来、薬味というものは主役の食品の風味を増し、食欲をそそるために添えられる物。それが主役級の大きさというのはどうなのでしょうか。私は焼きソバも好きなのですが、それと同じくらい長い紅しょうが入っていたら、皆さん納得しますか?焼き魚につくあの、なんか長くて半分赤くて途中から白いすっぱいの(名前失念)がつくでしょう?あれが魚と同じくらい大きかったら、どう思いますか?
 

さらに彼女はその大まかに切ったそれを、大量に、つまり納豆とほぼ同じ量、混入するのです。これに至っては朝食だけに噴飯ものです。焼きそばと同じ長さの紅しょうがが、焼きそばと同じ量、その中に入っていたら。うどんと同じ量の七味唐辛子が入っていたら。鶏の唐揚げと同じ量のパセリが(もう、やめます)。
 

そしてさらに困ったことに、彼女は納豆に醤油を入れてからかき混ぜるのです、それでは粘りが出ないじゃあないか。無論、彼女の作る(?)納豆はさらさらっとしています。そんなにあっさりした物が食いたいんだったら、納豆なんか食うんじゃねえ、粘るのか、粘らねえのかハッキリしろ、と江戸っ子(といっても私は神奈川出身ですが)の私なんかは思っちゃうんです。これは、例によってまた焼きそばで悪いんですけど、鉄板で痛めるときに粉末ソースをかけるのか、それとも粉末ソースを予め、他所で麺と絡めてから鉄板上で焼くのか、といった違いに似ています。まあ焼きそばに関してはどちらでも気にならないのですが。
 

最近ではわざと、早起きした振りをして、彼女より先に納豆を用意する、なんていうことをしています。でも、その次の週、彼女が私より早く起きて朝食を準備していたというのは、偶然の類いのものではないでしょう。しかし、私が心より望んでいるのは「おいしい納豆」ではないのです。
 

問題は、これだけの深い付き合いで、将来は家族でサッカーチームが作れるくらい子供を作ろうね、なんて話している私たちが、この、納豆と薬味とその調理方法という些細なことを顔をつきあわせて話す機会を持てない、ということなのです。



先週の土曜、夜が明ける前の深夜三時、トイレに行こうと思い目を覚ますと、「早起きしちゃった」と言って目の下に隈を作りながら、彼女が台所で朝食の準備をしていました。確か彼女は昨晩1:30まで深夜映画を見ていたはずです。
 

最近では、土曜の夜になるとお互い相手に深酒を勧めるようになりました。
 

私は今夜、明日の朝食に備え、夜半に夜食として明日の朝食用に準備してある納豆を食い(もちろん普段、夜食なんて食べません)、「いや~納豆食べちゃったよ~、ごめんごめん」と言って早朝、納豆を買いに走り、その流れで調理の係に回ろうか、と思案しております。
 

私たちはついに、来るべきところまで来てしまったのではないではないかと思います。いったいどうしたらよいのでしょうか。
 

さらに彼女は、実は、妊娠の兆しがあるようなのですが、そしてそれは私にとっても心から喜ばしいことなのですが、このこと(薬味のことです)で母体とおなかの赤ちゃんに何かよくない影響が出たりはしないでしょうか、心配です。