(再)Symptom 20171110(№104)(お萩)

(写真:萩沢写真館

 

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その年、僕はひどく体調を崩していて、仕事を長く休むことになった。妻はまだ女子大の学生だったので、僕の調子が比較的いいときには、彼女を大学まで送り迎えしていた。


僕は心身ともにかなり参っていて、まともな判断力をちっとも持ち合わせていなかった。そして、その頃再会した高校の同級生が紹介する、ネットワークビジネスの商品にひどく魅せられていた。


「ねえ俺さあ、直之からマグナブロック、買おうかと思ってるんだよね?腰痛がひどくてしょうがないんだよ。」


学校帰りに寄ったマクドナルド黒松店2階の、国道が見える窓際の席でテーブルに向かい合ってコーヒーをすすっていた妻が咳き込みながらちょっと不愉快な顔をして言った。


「ねえ、あなた。あなたの状況はよく分かっている。でも、あなたはあんなもの、本当にほしいと思ってるの?ちょっとどうかしてるわよ、ただの磁石に1万円も払うなんて?だいたいこのあいだ買ったあの5000円のサプリメント、あれだって言うほどの効果、本当にあった?」


僕はそれからもうちょっとのあいだ体のトラブルを抱えていることになるのだが、思い出す彼女の顔はそんなしかめ面でさえ美しく、当時、根拠なく続いていくのだろうなと思っていたそんな彼女との何気ない一日一日が、今となってはただただまぶしい。そして彼女はいつも正しかった。