(写真:萩沢写真館)
(5)
そういえばひとつ不思議な出来事があった。
3年になって部活動も引退し、高校受験をひかえたある日。同じ部活の友人に突然、こう言われたのだ。
「おいタダノ、お前やっぱりモテるなあ?!」あまりにも唐突だったし、そしてもちろん俺にはモテた覚えはまったくなかった。
彼が突然に話し出したのは部活動の最後の大会のときの事だった。(その年、彼女がなぜ泳ぐことがなかったのか、俺はそのわけを未だに知らない)。その日、俺はその大会の自分の最後の種目、平泳ぎの200mの予選に臨むために飛び込み台の上にいた。
俺の名前がコールされると、
「ほら、わっさん、タダノ君が泳ぐよ!応援しなきゃ!!」
と、観覧席にいた彼女の友達の女子部員達が「ATGCさん」を囃したらしい(「ATGCさん」は普段、友達に「わっさん」と呼ばれていた)。それをたまたま同じく応援席でタイムを計っていた友人が耳にしたのだった。
先日、何年かぶりにその友人に会う機会があり、あらためてそんな事があったかどうか彼に聞いてみた。友人はそのことを全く覚えていないという。「すまん、タダノ。申し訳ないんだけど全く何も覚えていないんだ。すまん。」