(再)Symptom 20161014(№33)(お萩)

(写真:萩沢写真館)

 

(2)

もう少しホルンのことを話そう。
 

ホルンと仲良くやっていくのは「簡単なこと」ではなかった。ホルンは、「おかしい」とまでは言わないまでも、他の楽器に比べればいささか「ユニークな」ところがあった。少々違っているところがあった、といってもいいだろう。
 

まず形が変わっている。ゴールデンレトリバーの子犬を一抱えしている様な見た目だ。非常に長い管をぐるぐる巻きにしているので、見かけ以上に重い(管当楽器の中で最も管が長い)。そして本体を支えるためとはいえ、ベルの中に手を入れるということは管楽器では極めて例外的だ。音が出る部分に直接手を入れるなんて、他の楽器では考えられない。さらに音階を変える鍵盤が左手側にある。利き手ではない方の手で音階キーを押さなければならない。また、その音階キーも3つしかないので、息の加減次第で、1オクターブで4つも音が出る。この楽器は基本的にメロディを演奏する楽器ではないので、伴奏の和音を構成する2番目とか3番目の音を出さなければならない場合、事前に音を確かめておかないといったい何の音を出せばいいのか、そして自分でもいったい何の音を出しているのかがわからなくなることになる。極めつけは演奏していると楽器を支えている手のひらが汗をかき、それと楽器の成分である鉛が化合して、手が緑青くさくなる(鎌倉の大仏や自由の女神の色、あれが銅が化合してできた緑青の色だ)。
 

しかし、それだけ苦労をして吹いているので、「やっぱりホルンが加わると中音域に厚みが出ますね」なんて誉められると(実際はそれがどんな意味なのか、僕ははっきりとは理解していなかったのだが、まあけなされているわけではないだろうという見当はついた)嬉しかった。そんなときはホルンも僕の方をちら、と見ることがあった。