(再)Symptom 20161225(№61)(お萩)

(写真:萩沢写真館)

 

「清水喜八郎」の仕事
 

ところどころに昨日降った雪が残っている中、竹藪の竹に「清水喜八郎」と書いてある木札を針金で結んでいる。向こうではテンガロンハットをかぶったヤクザのひとりが、ジャージ姿のちょっと鈍くさい子分のチンピラに向かって何かを怒鳴っていた。
 

3日前のことだった。
 

「土地はよ、向こうのモンになっちまった。だけどよ、そこに植わっている竹はまだ、うちの組のもんだ?そうだろ?だから、竹を避けることができねえようにしちまえばいい。竹、一本一本に「清水喜八郎」っていう木札をぶら下げんだよ。そしたら竹に触ることは出来ねえ。だからよ、タダノ、お前に頼みてえのは、大学の友達何人かを集めて来て欲しいんだ。できるだけ多くの竹に「清水喜八郎」の木札をつけてえからな。」
 

そんなわけで「清水喜八郎」と書かれた木札を竹藪の竹に針金で結わえていた。大学から連れてきたスズキが(他の友人には何のかんので断られた。賢明な判断だ)、小さな声で「さみぃな~、さみぃな~」と繰り返しつぶやきながら、溶け始めた雪をシャクシャクと踏みしだいて竹藪の奥の方に入っていった。
 

帰りにファミレスでステーキを昼飯代わりにごちそうになり、封筒に入った1万円札を渡された。竹藪の土地がはたして、「清水喜八郎」の物のままであったかは知らない。