(再)Symptom 20161008(№31)(お萩)

(写真:萩沢写真館)

 

「詩と写真6 2016」

(6)

彼女が訴えているのが聞こえた。本当に聞こえたのだ。彼女には、「彼女は実際に居た」という一言が必要なのだ。僕は、彼女の人生を、彼女の記憶を追わなければならない。偶然とはいえ気がついた僕が、彼女の声を聞いてあげなければならない。彼女は断崖の端にいた。忘却という暗黒へと落ちる断崖だ。しかし彼女は声を発していた。追われることを望んでいた。彼女は自分が居ることを、過去の記憶を通して訴えていたのだ。
 

突然、吐き気が込み上げた。
 

これは予兆なのだ。
 

しかし、彼女は消えてしまった。写り込んだ部分だけが消去された記録写真のように。底の見えない深い深い穴に落ちてしまったように。彼女は消えてしまった。