(再)Symptom 20160921(№22)(お萩)

(テキスト:お萩 / 写真:篠有里)

 

部屋の電気は消えている。雨戸も全て閉めた。街路灯に月明かり。いかなる灯りをも全て遮り、部屋の闇は深さを増す。ベッドに横たわるその眼は、開いているのか、閉じているのか。眠っているのか、それとも目覚めているのか。もしかしたら視力を失ってしまったのかもしれない。闇の中にそれらを確信させるものはない。一瞬、光が瞬いた気がする。それはまぶたの裏の残像か神経線維を走る電気信号か。
 

目覚まし時計の秒針が、ファミレスの床に落とされたアルミ盆のような音を立てる。ぐわんらんらああん。「失礼しましたー」悪びれた様子もない抑揚でウェイトレスは言う。「おにぎりは温めますかー?」いやいや違う、そいつはウェイトレスじゃなくてさっき晩飯を調達したコンビニの店員だ。「韓国でいちばん有名な焼酎の銘柄を知っていますか?」いや違う、それはさっきニュース番組の合間のCMで見た韓流スターだ。「ドコカデ、キータコト、アリマスカ?」「I’m sorry, I don’t あんだすたん. Beg ゆあ pardon?」同僚のスチュアート、何を言っているのか分からないよ?スチュアートは日本語を話し、俺はそれを英語で理解しようと必死になる。一日の出来事が何語で起こったものなのか、意識が混乱する。「アリマスカ?」
 

見上げる天井がざわざわとざわめいている。あらゆる種類の無数の地虫が天井一面を這い回る。ぽとり、ぽとり。一匹、二匹。それからそれらは堰を切ったように一気に落ちてくる。とっさにベッドから飛び起きようとした瞬間、わかる。自分の体が動かないのを。
 

 あなたはしにました
 

 つづけますか      はい/いいえ
 

気がつくと雨戸の隙間から、梅雨の晴れ間の夏の色彩を帯びた日光が差し込んでいた。