Symptom 20161118(№49)(お萩)

 文章1
 
 
 ディーラーで車の整備を待っている間、2階のショールームでアイスコーヒーをすすりながら窓の外を眺めていた。実際、それは入れものといい(すかしの入ったグラスだった)、色といい、アイスコーヒー然としないアイスコーヒーで、僕は麦茶と勘違いしてしまい、どうして接客の彼女はミルクとガムシロップを置いていったのだろう、おそらく冬にホットコーヒーを出していたときの勘違いだろう、と思ったほどだった。そんなわけで、最初の一口は、麦茶の味を期待した舌にはひどく苦かった。
 
 2階は通りに面した側が全面ガラス張りになっていて(そこに新型車の名前なんかが宣伝で貼ってあったりするんだけども)、僕は通りの良く見える窓際の席に座っていた。部 屋にはカタログやらなにやらがきちんと整頓されていて、客も僕しかいなかった。太陽がこちらを向いていなかったのとエアコンが効きすぎているせいで、部屋はちょっと薄暗く冷たくて物寂しい感じがした。
 
 向かいのビルの屋上から窓のガラス掃除の男が、1本のロープをするりするりと器用につたって降りてきた(ビルは6階以上あって、一旦はロープがビルの途中から張り出していた街路灯に引っかかり、それを解くのに難儀していたけれども)。外は確実に30度以上はあるだろうという猛暑だったが、男は地上に着くと自分の掃除した窓を満足げに眺め、そしてタバコをふかした。
 
 僕はその一部始終をその2階のエアコンの効いた部屋で眺めていた。喧騒も暑さも感じないその部屋でじ っとそうしてると、まるで水槽の中をガラス越しに覗いているような気になった。ただ、地面から上る追い水だけが、意識の遠くにかすかにセミの声を想起させた。