Symptom 20161107(№44)(お萩)

 

 

(6)

 

いや、俺だって何も分かっていないじゃないか。本当は俺にできることなんて何もないんだ。俺も所詮、一人の無能者ではないか。俺は救済者なんかじゃない。救われるべき哀れで惨めな、みすぼらしい魂は、俺そのものだ。考えてもみろ。俺に、何かができるわけがないじゃないか。自分で分かっているはずだ。そして実際に俺は、それでいいやと思っている。違うか?

 

遠くで犬が鳴いた。

 

そこは砂漠だった。一歩も進まなかった。タダノには進むことが正しいのかさえ分からなかった。歩くそばから足跡は消えた。どこから来たのか、どこへ行くのか、そして何のために来たのかも分からなくなっていた。

 

大層な理由なんてない。哲学じみた屁理屈をこねたいわけじゃない。ただもう、これ以上、俺は惨めな思いをするのは嫌なのだ。もう、何も降りたくない。もう、何も失いたくない。タダノの望んだものは、それだけだった。タダノはもう、ただ削り取られるだけの時間を過ごすことには耐えられなかった。

 

犬がニヤニヤ笑っている。何もできないよ。ずっとそのままだよ。だって何もしなくてもどうにかなるじゃない。何もできなくたっていいじゃない。無理するなよ。楽に生きろよ。ふふふ。

 

 

タダノの体に空いた穴を、乾いた風が吹き抜けた。