(3)
30代が終ろうとする頃から、タダノはその確固たる生き方に違和感を覚えるようになった。
初め、その違和感は乗車した列車の窓から一瞬、視界をかすめる看板のようなものだった。ちょっと疲れているのだろう。タダノはそう考えた。
しかし、休息をとったにもかかわらず、列車は徐々にスピードを落とし、その看板は読み取れる速さで視界を過ぎるようになった。タダノの歩みは時々つかえ始めた。
いつしか、その看板に目を奪われる事の方が多くなる。タダノは次にどう歩を進めようか迷うようになった。
ついにはその看板から目を離せなくなる。そしてタダノは完全に停止した。
「俺は一体、何をしているのだろう?」