Symptom 20161011(№32)(お萩)

 

 

(1)

 

ホルンが帰ってきた。

 

20年前のある冬の日、僕はあまり暖房の行き届いていない高校の音楽室で、制服の上にコートを着たまま、ホルンを抱えて座っていた。

 

いいかい、これが君の楽器だ。まあラッパの一種だと思ってくれればいい。ただ、これはラッパと違って、音を出すところ(「ベルっていうんだ」)を後ろに向けるんだ。そしてその中に右手を入れて支える。左手は、右手より高く楽器を掲げて、鍵盤を弾く。そうすると音程が変わる。

 

かしこまった子犬のようなその楽器は、僕の腕の中で金色のメッキを輝かせながら、ちら、と一瞬こちらを見た。

 

旧式のストーブの上に乗せられた、同じような旧式のヤカンがシュンシュンと音を立てていた。

 

僕はもう、高校生ではなかったし、もちろん部活動にだって所属していない。高校を卒業するときに譲られたホルンも、数年前に勤務した高校の生徒にあげてしまった。