Symptom 20160906(№15)(お萩)

 

 

「文章38」

 

彼女はひどく憔悴した様子で言った。

 

「自分が磨耗しているのが分かるのよ。一日、一日と、少しずつ、本当に少しずつなんだけど確実にすり減っているのが。そのことを考えると気が狂いそうになるわ。ひどい焦燥感に駆り立てられるのよ。でも、それでも体が動かないの。どうしていいか分からないのよ。ただすり減るのを黙って見ていることしかできないの。」

 

そう言って彼女はガラス越しに外を歩く通行人をきょろきょろと目で追いながら、アイスコーヒーを一口吸い上げた。

 

「でもね、そうなのよ、きっと。私の中に乱雑に、うず高く積もる言葉。きっとそれにある日突然、天から一筋の光のようなものが射すわ。そして自然の成り立ちと同じように、それらを整然とした「体系」に並べてくれるの。ううん、その「体系」はもともとそこにあって、私はそれに気づいていないだけなのかもしれない。それを示してくれる天啓のようなものが、何かの弾みで私の頭に閃くの。そんな時を待っているのよ。」

 

僕に天啓が訪れることはなかった。日常との接点を見いだし、社会に慣れることで、僕はある種の力を回復していった。それは僕が病に伏したときに心から望んだ力だった。しかしその回復は同時に、ある種の閃きを失わせていった。ひどく鋭敏だった僕は、どんどん愚鈍になった。しかしそれが僕に見合った幸せなのかもしれない。

 

彼女はきっと天啓に導かれたのだろう。彼女は幸せだったろうか。