Symptom 20160831(№12)(お萩)

 

 

ちょっと遅い昼食をたったひとりで、近所のファミリーレストランでとっていた。(あまりにも中途半端にお昼から時間がずれていたので、「一人なの?ファミレスなのに?」と突っ込む誰かさえ見つからなかった。)

 

八宝菜ピラフをほおばりデザートメニューを遠くへ近くへしながら老眼チェックをしていたら、ひそひそ声だった角のパーテーションに区切られた席から突然、普通の会話よりも1トーン大きな声が聞こえた。

 

「いい!?あんたのはね、頑固じゃなく、意固地って言うんだよ!守りたいモノを積極的に守ること、それが頑固。あんたはね、ただ状況が変わるのが怖くて、単にただ何かにしがみついているだけよ!そんなの頑固って言わないわ!状況が変化(そしてそれは必要であるとあなたはもうすでに気づいているはず!)する事で起こる事物を受け止める自信がないだけ、ただそれだけよ!結局、ワイフビーターの息子なんて所詮、ワイフビーターなんだよ!このマニュアル教師!!」

 

茶髪で短いスカートの女子高生がそう言い捨てて勢いよく席を立ち、ドリンクバーにカルピスのお代わりを取りに行く姿が見えた。きっと「マニュアルなんとか」って言ってみたかったんだろう。

 

店内BGMはジェネシスの「インビジブルタッチ」、オーケストラバージョンだった。

 

後から入ってきて空席を空けた二つとなりのパーテーションの席に座った、中年の男の一人(メガネをかけて、折り目正しいワイシャツを着た清潔感がある方)が、もう一人(さも今たたき起こされて無理矢理急いで着替えさせられたような、上下別なメーカーのジャージを着て寝ぐせ頭にキャップをかぶったような男)に青い顔をして真剣に何事かを相談している。

 

「シャワーを浴びているうちに考えるんですよ、もう仕事なんて行きたくないって。」

「はあー、仕事、行きたくなくなるんだー?」

「髪を洗うときなんて、目をつぶるじゃないですか?」

「うん、目をつぶるー?」

「そうすると一発ですね、もう行きたくなさすぎて死にたくなる。」

「ああ、もうすごく行くのがいやなんだねー?」

 

この時間帯は厨房とホールを兼ねて働いているらしく、呼び出しチャイムが鳴ってもなかなか店員が出てこなかった。「ピンポーン」と虚しくベルだけが鳴る。試しに頭の中でこう言ってからベルを鳴らしてみた。

 

時々死にたくなる。「ピンポーン」

時々身に回りのものが全て嫌になる。「ピンポーン」

デザートにホットケーキをひと

‥言い終わる前に奥から「ただいま参りまーす」と聞こえた。

 

BGMはポリスの「見つめていたい」に変わっていた。