ちょっと遅い昼食をたったひとりで、近所のファミリーレストランでとっていた。(あまりにも中途半端にお昼から時間がずれていたので、「一人なの?ファミレスなのに?」と突っ込む誰かさえ見つからなかった。)
八宝菜ピラフをほおばりデザートメニューを遠くへ近くへしながら老眼チェックをしていたら、ひそひそ声だった角のパーテーションに区切られた席から突然、普通の会話よりも1トーン大きな声が聞こえた。
「いい!?あんたのはね、頑固じゃなく、意固地って言うんだよ!守りたいモノを積極的に守ること、それが頑固。あんたはね、ただ状況が変わるのが怖くて、単にただ何かにしがみついているだけよ!そんなの頑固って言わないわ!状況が変化(そしてそれは必要であるとあなたはもうすでに気づいているはず!)する事で起こる事物を受け止める自信がないだけ、ただそれだけよ!結局、ワイフビーターの息子なんて所詮、ワイフビーターなんだよ!このマニュアル教師!!」
茶髪で短いスカートの女子高生がそう言い捨てて勢いよく席を立ち、ドリンクバーにカルピスのお代わりを取りに行く姿が見えた。きっと「マニュアルなんとか」って言ってみたかったんだろう。
店内BGMはジェネシスの「インビジブルタッチ」、オーケストラバージョンだった。
後から入ってきて空席を空けた二つとなりのパーテーションの席に座った、中年の男の一人(メガネをかけて、折り目正しいワイシャツを着た清潔感がある方)が、もう一人(さも今たたき起こされて無理矢理急いで着替えさせられたような、上下別なメーカーのジャージを着て寝ぐせ頭にキャップをかぶったような男)に青い顔をして真剣に何事かを相談している。
「シャワーを浴びているうちに考えるんですよ、もう仕事なんて行きたくないって。」
「はあー、仕事、行きたくなくなるんだー?」
「髪を洗うときなんて、目をつぶるじゃないですか?」
「うん、目をつぶるー?」
「そうすると一発ですね、もう行きたくなさすぎて死にたくなる。」
「ああ、もうすごく行くのがいやなんだねー?」
この時間帯は厨房とホールを兼ねて働いているらしく、呼び出しチャイムが鳴ってもなかなか店員が出てこなかった。「ピンポーン」と虚しくベルだけが鳴る。試しに頭の中でこう言ってからベルを鳴らしてみた。
時々死にたくなる。「ピンポーン」
時々身に回りのものが全て嫌になる。「ピンポーン」
デザートにホットケーキをひと
‥言い終わる前に奥から「ただいま参りまーす」と聞こえた。
BGMはポリスの「見つめていたい」に変わっていた。