Symptom 20160829 (第11話)(お萩)

 

 

複雑な葉脈が実は単純な形の繰り返しであるように、俺はあの時、彼女に問わなければならなかったんだ。机の落書きのことを。クラッシックギターのことを。落ちた消しゴムのことを。席替えのことを。チョコレートのことを。何度も送った手紙のことを。返信のなかった手紙のことを。歯列矯正のことを。クラス合唱のことを。転校していった洋平君のことを。折り鶴のことを。最後の大会のことを。あの一年に起こった全てのことを。

 

俺はずんずんズルくなっていく。俺はあまりにも自分をごまかして生きすぎてしまった。俺は投げやりだ。俺はしらけすぎだ。俺はバカだ。俺は、あまりにもそういうことに慣れすぎてしまった。そうやって自分の気持ちをだましたりすかしたりしているうち、本当の自分の感情が何か分からなくなってしまったよ。

 

俺はいったい何なのだ?何のために生き、何のために死ぬんだ?何の理想も何の哲学もなく、その日一日がただ終わればいい、それだけなのか?俺は自分が誰なの分からない。そして自分のことを攻撃するのがやめられない。自分を許すことができないんだ。

 

雪は校庭一面を真っ白にしていた。雪原はきらきら光っていて、どこを向いても逆光で何も見えなかった。僕はしかたなくプールの洗眼用水道のコンクリートに座り、ぼんやりと一面の雪を眺めていた。彼女はきらきら輝く雪原の端で第2コースの飛び込み台にたち、友人のタイムを計っていた。5コースからスイミングに通っている速い子が飛び込んだ。彼女はきゃっと言いながら笑って水しぶきから顔を背けた。

 

今なら彼女に問うことができるだろうか。でも僕は動けない、あの時と同じように。何を問えばいいのか分からない、あの時のように。

 

結局、僕はこの冷酷で残虐で狡猾な現実で、無惨で粗末でみすぼらしい生き恥をさらして行こうと思う。そこに僕の理想の姿は無いのかもしれない。しかし、それは何より、僕の決めたことなのだ。僕自身の意志で、決めたことなのだ。答えのない問いへの、僕なりの結論だった。

 

彼女なら、いつだってあのプールサイドにいる。

 

アデリーペンギンが呼んでいる。そろそろ時間だ。