どこを向いても逆光で、何も見えなかった。
彼女は2コースの飛び込み台に制服姿で立ち、まぶしそうに目を細めながら向こうから泳いでくる寿子のタイムを計っていた。彼女がその夏、なぜ泳がなくなったのか僕は知らない。5コースからフリーの選手が飛び込んだ。スイミングに通っている速い子だった。水しぶきがあがる。きゃっと言いながら彼女は笑って水しぶきから顔を背けた。
僕はその一部始終を目を洗う水道のコンクリートのところに腰をかけて見ていた。
そうときどき、どこを見てもまぶしくて何も見えなくなると思い出すんだった。きらきらさざめくプールの端に立って、水しぶきにきゃっと言って笑いながら顔を背ける彼女を。
俺はすっかり忘れていたんだよ、そのことを。アデリーペンギンに呼び止められるまで、すっかり。