彼女のことなんて、すっかり忘れていた。
「南極には二種類のペンギンがいます。コウテイペンギンとアデリーペンギンです。」
テレビにはペンギンが映っていた。
南極で生活する生物で、二足歩行をするものはペンギンしかいない。だから観測員が作業をしているとふいに、アデリーペンギンから呼び止められることがあるという。
28歳と半年。決めるにはもってこいの年月だ。アデリーペンギンに呼び止められた南極観測隊員のように。複雑な葉脈が、実は単純な形の繰り返しであるように。
全ての回復のために、僕は彼女を思い出そうと思う。