(6)
いや、俺だって何も分かっていないじゃないか。本当は俺にできることなんて何もないんだ。俺も所詮、一人の無能者ではないか。俺は救済者なんかじゃない。救われるべき哀れで惨めな、みすぼらしい魂は、俺そのものだ。考えてもみろ。俺に、何かができるわけがないじゃないか。自分で分かっているはずだ。そして実際に俺は、それでいいやと思っている。違うか?
遠くで犬が鳴いた。
そこは砂漠だった。一歩も進まなかった。タダノには進むことが正しいのかさえ分からなかった。歩くそばから足跡は消えた。どこから来たのか、どこへ行くのか、そして何のために来たのかも分からなくなっていた。
大層な理由なんてない。哲学じみた屁理屈をこねたいわけじゃない。ただもう、これ以上、俺は惨めな思いをするのは嫌なのだ。もう、何も降りたくない。もう、何も失いたくない。タダノの望んだものは、それだけだった。タダノはもう、ただ削り取られるだけの時間を過ごすことには耐えられなかった。
犬がニヤニヤ笑っている。何もできないよ。ずっとそのままだよ。だって何もしなくてもどうにかなるじゃない。何もできなくたっていいじゃない。無理するなよ。楽に生きろよ。ふふふ。
タダノの体に空いた穴を、乾いた風が吹き抜けた。