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44年の人生を振り返ると、そこに何の価値も見いだせないことにタダノは気づいた。それどころか、そこには多くの「あるべきもの」が存在していないようにさえ思えた。
タダノは精一杯、惰性や誤魔化しに逆らって生きていきた。しかし実際は何も為されてはいなかったのだ。
状況が悪かったのか、周囲の人々に恵まれなかったのか、環境の所為なのか。違う。最もの原因は、タダノ自身の「無能さ」だった。タダノがどれほど懸命に生きたか、そんなことは何の意味もなさない。全ては、その「無能さ」により必然的に導かれた結果だった。
そのことを理解したとき、タダノは停止したその場所にずぶずぶと沈み始めた。それは、タダノが必死で抵抗してきた「日常」という名の泥沼だった。
事実は、44年の間、ただ、タダノ自身が消耗した、それだけだった。
タダノは人生に対する自分の哲学を、更新するときがきていた。